2015年5月16日土曜日

花鳥風月04/18・夜

昼の「月闘」が終わり、会場を出たところに、夜の試合を控えたドラゴン・ユウキ選手がマスクをつけたままで立ち話をしていた。
それだけに留まらず、気がつくと道路の向こう側から政宗選手が、その反対側からは新井健一郎選手がカートを引いてやってくるではないか。
おそらく、バビロンの出入口が一箇所しかないから、というオチなのであろう。――に、してもこの、観客と選手の距離の近さはインディー団体特有のものであり、そこに惹かれるお客さんも多いんだろうなーと思ったりもするわけで。まして東京花鳥風月は特殊な形態も備えており、所属選手との距離は一層近いのではという印象を受ける。こういう場合、私のように一線を引いて応援したい客としては、どのようにしたらいいのかわからず、もうただただ敬意を払うくらいしかなく、ちょっと困ってしまう。

夜の部が始まるまでは少しの間があったので、王子神谷の駅前で食事などを取り休憩後、再びバビロンへ。前説の後、エキシビションマッチが幕を開けた。
■マッチョ・マイケルズvs川島真織
将来を期待されている真織練習生の相手は、人気者のマッチョ選手だ。今回は見てる誰もが分かりやすいハードルを真織練習生に突きつけてきた。
それはシャツを着たまま試合に臨むこと。つまり「脱がしてみろ」ということだ。やはり発奮したのだろう、やられっぱなしでは終わらず、意地を見せ、得意技にすべく磨いている三角飛びのようなスイング式DDTもキメて、マッチョ選手からシャツを脱がせるに至らせた。何よりスリーカウントを奪われず、ギブアップもしなかったことで、成長を示せたことが大きい。からだもずいぶんと出来上がってきたように思う。マッチョ選手も肌で感じ、ついに審議の後、五月の大会で査定試合が決定! いろんな団体に呼ばれて試合をこなしている服部選手に付いていき、そこで用務をこなすなか、きっと「早く自分も一人前としてリングに立ちたい」との思いは募らせていた筈。その熱い丈がどれほどのものか、査定試合で見せてほしい。
■ドラゴン・ユウキvs瓦井寿也
スタイルは純プロレスながら、ハードヒットや月闘など、格闘の強さを指向する場にも躊躇せず出ていき経験を積もうとする瓦井選手と、ルチャ系のマスクマンなるも巨躯を生かしたパワーファイターというドラゴン・ユウキ選手。若い瓦井選手の動きを往なしつつ、髪の毛いじりで精神的ダメージを与えたかと思えば、からだを捻りながらのライジング式エルボーといった、ハッとするような凄い技を繰り出すなど、さすがの試合運びを見せてくれました。しかし今回は瓦井選手もかなり粘って、気持ちが伝わりました。次こそ勝利!
■マッチョ・マイケルズvs江利川祐
いつもの、倒れた相手の足を絡め、ポージングしてから倒れこみダメージを与える技に加え、新たにお姫様抱っこからのバックブリーカーを披露したマッチョ選手。自分のキャラの見せかたを心得ているなあと。江利川選手は以前のように成すすべなく攻めこまれるだけで終わらず、技が出てくるようになりましたね。それでも最後のエースクラッシャーは偶然要素が強かったような……? でもまあ、勝ちは勝ち! 初勝利に新井健一郎選手も祝福を! と思ったら、やはり手のひら返しの痛めつけに転じるお約束。だが江利川選手は逆襲して泡を食わせリングから追い払うと、五月の大会での再戦を要求。これは承諾され、江利川選手にとっては避けて通れぬ複雑な感情の詰まったカードが決定しました。
■梅沢菊次郎&HAMATANIvs塚本拓海&ジョシュ・オブライエン
以前より花鳥風月にスポット参戦している大日本出身の塚本選手は、この試合でも「大日魂」のリストバンドを着けてファイトに臨んでおり、ジョシュ選手と並び立つとスティッフな印象を受けます。
対する梅沢&HAMATANI組は、過剰なハッスルをしがちな梅沢選手と、「ああ、プロレスが好きなんだな」ということが伝わってくる、まだ不慣れながらもカポエイラとMMAを独自にアレンジしたスタイルのHAMATANI選手という異色のコンビであり、果たしてどうなるのかなと思っていましたが、応援のつもりなのか、コーナーに立つ梅沢選手はファイト中のHAMATANI選手に向けて何度も呪文めいた口調で「ハ~マ~タ~ニィ~」と連呼。これは私だけでなく、大会が終わって帰宅した後、自分で呟いてみたりしたお客さんもいるのではないかなと。すっかり伝染してしまいました。その梅沢選手、相手二人をいっぺんに担ぎ上げる荒々しい投げ技を見せるなどし奮闘しましたが、HAMATANI選手がつかまり塚本&ジョシュ組の勝利となりました。HAMATANI選手、短期間に花鳥風月のリングで経験を積んで、感触も掴めてきたのではないでしょうか。もしかすると次は金星あるかも?
■服部健太&三尾祥久vs神楽&スペースレッド

こちらは前大会と同じ組み合わせのカードとなりました。奇しくもそこで「ハットトリック」誕生となったわけですが、今回は対戦相手である神楽選手とスペースレッド選手のコンビにも名称が冠せられました。その名も「オウンゴール」! こちらは罰ゲーム的な意味合いが強いので、彼らが今後これを名乗るかは微妙なところです。試合は三尾選手のしなやかなバネからのキレる飛び技、服部選手が得意とするジャーマンなどで勝利するも、オウンゴール組も前回の雪辱とばかり入場曲で張り合ったり、一方的な展開にはさせじと奮闘してくれました。
■勝村周一朗&政宗vs新井健一郎&ジ・ウインガー
そして、大会が終わってかなり経つも尚、強く印象を残しているメインの試合となるわけです。
前回、シングルで激突した後、勝村選手からの共闘の誘いを「近くで観察して弱点を見つける」との理由で承諾した政宗選手。今回コンビを組んで闘う相手は、いきなり強敵――新井健一郎選手とジ・ウインガー選手の曲者コンビです。政宗選手にとっては、これまで花鳥風月のリングで共にタッグを組んだりセコンドについたりして、経験の少ない所属選手にダメ出しをしてきた、いわば仲間との戦い。いかにもやりにくそうでしたし、新井選手はここぞとばかり「政宗ちゃ~ん」と弄りにかかってきます。
勿論、そういう声には耳を貸さず、きちんとファイトをしてみせる政宗選手でしたが、さすがに経験豊富な両者を突き崩すまでには至りません。ウインガー選手にしても、様々な団体のリングに上がり、対戦相手、組む相手、会場の雰囲気にまで気を配り試合をつくれるプロレスラーです。相手が勝村選手と政宗選手であれば、それに対抗できるモードで応戦してきます。一方、勝村選手は昼の試合で痛めた肘を狙われ、思うように圧倒できず、苦しい展開となってしまいました。
イライラが募ってしまったのか、勝村選手はトリガーとなる言葉を放ってしまいます。
「なにやってんスか、政宗さん!」
突き飛ばしてしまったのかまでは確認できなかったのですが、一方的に「不甲斐ない」といった烙印をパートナーに押されてしまった政宗選手はプライドを傷つけられ、リングを降りてしまいます。それどころか、もう帰るとばかり、会場から出て行こうとも。これは寸でのところで花鳥風月代表の説得により回避できましたが、しばらく政宗選手は傍観モード。二対一では勝村選手といえどどうしようもなく、負傷箇所を攻められ、このままでは……というところで政宗選手が救援に入り、新井選手を抑えた好機を逃さず、ウインガー選手に必殺のニンジャチョークをキメ、どうにか勝利を収めました。ここ最近の勝村選手は、フィニッシュを飛びつき三角締めからニンジャチョークに移行させていますが、これは当然、次の大会の相手である鈴木選手も警戒してくる筈。過去、同じ大型プロレスラーの高山善廣選手に黒星をつけられている勝村選手にとって、次回は絶対に負けられない戦いとなるでしょう。
リング上では試合を終えた選手同士が対峙し、投げ込まれたマイクを取り――(以下うろ覚え)
アラケン「勝村さんよ、この試合、一から十まですべて、俺と、ウインガーと、政宗ちゃんの掌の上だったのかもよ?」
政宗「勝村さん、いやおい勝村! 俺はな、別にあんたと好きで組んでるわけじゃねーんだ。そこ履き違えんな! また組んでやるよ」
勝村「政宗さん、いや政宗。敵だか味方だかわかんないけど、あんたと組んでると楽しいよ。次も組もうよ」→ 互いにビンタを交換
この後、花鳥風月所属メンバー総リングインで〆となったのですが、メイン後の緊張感漂う雰囲気が後々まで尾を引くことになりました。しかし新井選手の振る舞いにはやはり痺れます。他所の団体ではヒール軍団の頭として抗争を牽引し、また別な団体ではストーリーに絡まず自由に飄々とファイトを楽しむ。そして花鳥風月では若い選手たちのケツを叩き、辛辣にこき下ろす一方、旧知の江利川選手に対してはデビュー戦の相手を引き受けるという情を見せるのです。
「プロレスとは、点と点をつなげ、線にしていくもの」
たびたび口にするこのフレーズは、この世界で長年やってきた新井選手の、揺るぎない哲学なのでしょう。
次の大会の、誰もが期待する大一番。
突如として花鳥風月に現れ、服部選手にダメ出しをし、ジョシュ選手と梅沢選手をマットに沈めた鈴木秀樹選手。
まさしく点と点が結びついた、必然の決着戦といえるでしょう。楽しみです。

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